持続可能な建築 将来への配慮

物理的な寿命

建築の寿命はどのくらい?例えば鉄筋コンクリート造の建物は?

税法上の取り扱いですが、耐用年数として鉄筋コンクリート構造の事務所等で50年、住宅・学校等で47年となっています。しかし、これは減価償却資産の耐用年数として設定されたものであり、実際の物理的寿命を示すものではありません。

↑国土交通省 「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」報告書 取りまとめ後の取組紹介(平成25 年 9 月26 日)より抜粋

国土交通省の資料にまとめられた既往の研究例では、鉄筋コンクリート造の建物の寿命は50年~150年と幅広くとらえられていますが、少なくとも鉄筋コンクリート部材の耐久性能は実態として半世紀以上の耐用年数は認められると言えます。

実際、コンクリートそのものの寿命は非常に長く、現在のポルトランドセメントを使用したコンクリートではないものの、ローマのパンテオンは無筋のコンクリート構造で1900年前に建てられ現存しています。

現在のコンクリート構造は一般に鉄筋コンクリート構造(通称RC造はreinforced concrete:補強コンクリートの略称)と呼ばれは圧縮力に強いが引張力に弱いコンクリートを鉄筋によって補強した構法です。

鉄筋は酸化により錆びて体積が膨張しますが、RC造では鉄筋が錆びると構造的性能が劣化する上、体積の膨張は内部からコンクリートを破壊してしまいます。コンクリートはアルカリ性であるため、コンクリートで覆われた鉄筋は酸化せず高い耐久性を確保することができます。RC造では鉄筋から外側のコンクリートの厚さ(かぶり厚)について、適切な厚みを確保し、鉄筋の酸化を防ぐことが耐久性を向上させることが設計上も施工上も大変重要になります。我々が工事監理する場面でもかぶり厚の確保については必ず確認を行います。

一般にRC造の寿命を60年ということがありますが、これは大気中の炭酸ガスが徐々に浸透してコンクリートが鉄筋の深さまで中性化し、内部の鉄筋の錆の進展を抑止できなくなるまでの期間であり、一般的なコンクリートかぶり厚30mmに対して、アルカリ性を持つコンクリートが中性化するスピードを5mm/年として計算したものであることが知られています。

建築の寿命

しかし、これは構造体としての耐用年数であり、仕上材や防水材、設備機器等の耐用年数はそれぞれで一般には構造体の耐用年数より短くなっています。仕上材などの耐用年数を迎えた時、その更新に大きなコストや手間がかかってしまう場合、構造体の耐用年数に達していなくても、建物が取り壊されてしまうこともあります。特に防水は建物の基本的な性能であり、更新も容易でないことも多いため防水の耐用年数が建物の寿命となることも多いようです。私の実務上の経験では鉄筋コンクリート構造の建物では使用されることが多いアスファルト保護防水の耐用年数である30年程度から漏水などの問題が発生し始め、塗膜防水などの対応を施し40年程度で建物の取り壊しを考えるタイミングになってくるように思います。

また、そういったハード面の寿命とは別に機能的な理由や所有者の変化などソフト面によって建物が取り壊されることも多くあります。まして、社会が目まぐるしく変化していく現代において建築のソフト面に対する耐用年数はなお一層短くなっていると言えるでしょう。

大きなインパクト

非常に大きなイニシャルエネルギーを使用してつくられ、また、使用することで大きなランニングエネルギーを使用する建築物。また、解体するとなれば、解体のためにも大きなエネルギーが必要となり、同時に多くの廃棄物を生み出してしまいます。

日本では江戸時代から高度経済成長期へと続いてきたスクラップアンドビルド(取り壊しによる建替え)。今後はエネルギー消費を抑えるとともに長寿命化を図り、地球環境負荷を小さくすることが求められます。日本建築学会でも、設計耐用年数をあらかじめ設定し、その設定に対応した品質を確保した設計、施工及び維持管理を行うことを推奨しています。

持続可能な建築

2015年の国連サミットで193の国の首脳の参加のもと、全会一致でSDGs(エス・ディー・ジーズ)が採択されました。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は貧困や飢餓から環境問題、経済成長やジェンダーまで幅広いさまざまな課題が網羅され、豊かさを追求しながらも地球環境を守り、「誰一人取り残さない」ことを強調した17の目標です。

社会が、世界が、地球全体が、持続可能であるために目標を定め、それぞれが力を注いでいくことが求められています。

建築においても持続可能であることはより一層重要となってきており、少ないエネルギーの消費で社会的な意義や役割を果たし、長く愛着を持って使い続けられる必要があると考えています。

そのためには勿論、構造体の長寿命化は重要ですが、目まぐるしく変化する社会の中で、その変化に対応できる柔軟性を建築というハードの中に内包することがいま求められているのだと思います。

変化に対応できる柔軟性

○保育園不足の中で整備された保育園:将来の用途変更への対応

新たに開発された郊外の住宅地において、増えていく若い世代の転入者の子どもたちを受け入れるために建てられた保育園。

1970年代以降に次々と開発された郊外の住宅地では開発当初、若い世代が次々と転入し、新しい保育園や小学校が開園・開校し、子どもとともに活気ある街を作り上げていました。しかし、30~40年過ぎると親世代の高齢化が進み、子どもたちは成長して都市に移り住み、子どもたちは激減。使われなくなった人気のない園舎や校舎が立ち並んでいます。

この保育園が計画された住宅地は近年開発された新しい住宅地で、今は若い世代の転入者が増加しており、その子どもたちのための保育園はさらに必要とされている状況です。しかし、かつて開発された郊外の住宅地と同じく、保育園の需要は減っていくことが予想されます。

そのため、保育園を別用途に転用できるような計画を提案しています。保育園はトイレがほとんど子ども用となっています。器具の大きさも違えば、レイアウトの間隔も大人のそれとは異なります。そのため、トイレのエリアの床を木軸床として下部に配管ピットを設けています。

  • 配管の更新が容易にできる
  • トイレ内のプランニングを自由にする
  • 工事範囲を限定できる

これらによって、現在保育園を様々な用途に変更できるよう提案し、実現しています。この計画が生かされるのはまだまだ先ですが、持続可能性を高めることに寄与することを期待しています。

↑オレンジの部分が木軸床の範囲。トイレに位置は上下階合わせており、2階のトイレを更新する場合も配管工事が最小限になるように計画している。
↑点検口から木軸床下のピットを見る。2階建・鉄骨造で基礎梁背がコンクリートピットをつくる程大きくなない場合でも、木軸床によって配管ピットを確保している。掘削コストや基礎コストを抑えながら配管ピットを確保することも持続可能性を高めていると言える。
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○設備更新や防水更新がしやすい事務所ビル

エネルギー会社の自社ビルオフィスとして環境配慮型ビルとして計画された事務所ビル。自然エネルギーの積極利用と環境配慮設備の採用の他、エネルギー消費を抑えながらの長寿命化することを目指している。特に、日々改良される省エネルギー設備をより良いものに更新していくために更新しやすさを追求した計画を行っている。

雨水・上水・排水・ガスの配管と排気ベントキャップは外部の設備バルコニーに設置し、容易にメンテナンスが可能となっている。

↑テラコッタルーバーと壁面緑化によって覆われた外部の設備バルコニー側の外観。外部に露出される配管を目隠ししている。
↑設備バルコニーを見る。3階以上は消防侵入口用のバルコニーも兼ねている。
↑屋上の設備置場。アスファルト防水屋根から架台でかさ上げされており、防水屋根と無関係に設備機器のレイアウトが変更できる。防水更新においても架台下で作業可能となっている。
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○様々なテナントへ対応できるテナントビル

日本を代表する商業集積地において周辺をリードするようなハイグレードの商業ビルとして建設されました。高い視認性を持つ限りなく透明なショーケースのような下層部商業店舗部は1・2階を分割しても、連続しても使用できるよう2階床の一部をスパンクリート床として取り外し可能な床としています。

上階は下階テナントに迷惑を掛けずに給排水工事が可能となるよう揚げ床としており、床をフラットなままにフロアのどこにでも水廻りを設置できるようにしている。これによりテナントは多種多様な業種が入居可能であり、テナントビルの経営を安定させることで持続可能性を高めていると言えます。

↑取外可能なスパンクリートの床。上部のスラブ下に吊り下げ用のフックを準備している。
↑スパンクリート部の下部からの見上げ。吊り上げる上で問題ない重量となるように小分けにし、下地を設置している。
↑上階の断面図。OAフロアH=250として計画している。
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おわりに

ここでは建築というハードの中に変化に対応できる柔軟性を内包するということを目標としたいくつかの事例を紹介しましたが、一方で、建築がさらにより長く世に存在していくには、いろいろなものを受け入れられる空間の寛容さや機能などに左右されない空間の強さ、単体または複合的な美しさや他にはない先進性といった建築的な魅力が必要だと思います。

自らがデザインした建物が長く存在し、人々に愛される。これは建築家にとって究極的な目標だと思っています。


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