住戸間の界壁

新たに確認された施工不備

先日、賃貸住宅大手の施工不備についてさらに多くの建物で確認されたことがニュースになりました。
2019年2月7日に発表された資料によると以下の3点が新たに確認されたとのことです。

①  界壁内部充填材の相違による遮音性能不足

遮音のために施工する界壁内のグラスウールを発泡ウレタンで代替え

建築基準法で定められた必要な性能を確保できないと考えられる。(少なくとも担保できていない)
発表によると当該発泡ウレタンを“断熱材として施工”となっていますが、住戸間の界壁に断熱の目的として断熱材の施工を施すことは一般的ではない上、先に露見した天井裏の界壁未施工からわかる通り(断熱であっても遮音であっても天井裏が繋がっていれば壁の間の断熱も遮音もほとんど意味をなさない)、「グラスウール=断熱材だから同じ断熱材の発泡ウレタンを施工しとけばいいんでしょ。」という現場の状態だったということを推察します。

②  図面と全く異なる外壁仕様による耐火(防火)性能不足

下地のピッチが広く、断熱材のグラスウールを発泡ウレタンで代替え

まず、外壁の下地のピッチが広いということは風などに対する外力に対して本来持つべき強度を確保できていない可能性があります。加えて、断熱材であるグラスウールは耐火壁や防火壁の一部となるような燃えにくい材料である一方、発泡ウレタンは工事現場火災の原因となることもある燃えやすい材料。
それを耐火や防火が必要な外壁の一部として使用すること自体ナンセンスというもの。発泡ウレタンが燃えやすいという認識は普通現場も持っていると思われますので、「外壁の耐火性能って何?サインディングにしとけばいいんでしょ。」という感じだったのではないでしょうか。

③  3階建以上の共同住宅の床に必要な耐火性能不足

床を構成する部材としての下階の天井仕上について、耐火性能を確保するためのボード枚数の不足や組合せの間違い

法的には床の耐火性能のために下階の天井ボードの仕様を正しく施工する必要があったということですが、コンクリート床ではないためそれでなくとも上下階の音が伝わりやすい状態にもかかわらず、さらに必要なボード厚も確保できていなかったとすると法的に制限はなくとも上下階の音の問題も多く発生していたのではないかと思われます。
発表の見解では原因として“化粧石膏ボードとロックウール吸音板の間違い”について言及していますが、化粧石膏ボードは通称「ジプトーン」と呼ばれ、通常は1枚張り(ビス止め)で使用する材料でありロックウール吸音板は「岩吸(がんきゅう)」と呼ばれ通常は2枚張り(接着張り)で使用する材料です。また、化粧石膏ボードは岩綿吸音板のコストダウン用代替品として見た目を似せて作ってはいますが、普通の建築関係者であれば見間違えることはまずないものだと思います。

元々の問題となった界壁の施工不備

元々の問題となったのは、界壁部分の施工不備による建築基準法違反です。共同住宅の各住戸の界壁には建築基準法によって耐火性能と遮音性能が求められます。

○耐火性能

建築基準法施行令第114条では共同住宅などの界壁について準耐火性能を確保し、天井裏や小屋裏まで達するよう施工することを規定しています。建築業界では俗に「114条区画」といってオレンジのラインで確認申請図面に明記するものです。
通常、共同住宅の火災は住戸内で発生します。住戸内で起こった火災について、住戸間を耐火性能のある壁で区画することで燃え広がりを抑えることができます。これが正しく施工されていないと天井裏などが煙突状態になって次々燃え広がってしまいます。

○遮音性能

共同住宅などの界壁については建築基準法第30条で天井裏や小屋裏まで塞ぐことと遮音性能を求められ、施行令第22条の3で確保しなければならない具体的な界壁の遮音性能値を規定しています。

■共同住宅などの界壁で確保しなければならない性能値

今回の場合、天井裏や小屋裏に界壁が設置されていなかった訳ですが、これは壁に穴が開いている状態ですから壁そのものの遮音性能があってもその遮音性能はほとんど無意味で音はダダ漏れということになってしまいます。

正しい理解を持つ設計者と監理者の必要性

界壁、外壁、床の施工不備による建築基準法違反は本来、共同住宅として最低限持つべき基準を満たしておらず、危険で最低限の居住環境を保証できていません。
今回の件を受けて改めて、正しい理解を持つ設計監理者の必要性が改めて浮き彫りになったのではないかと思います。
これらの改修を実施するにあたり引っ越し費用を全額負担するなど、できる限りの対応をしているかと思いますが、対応すべき件数は非常に多く時間がかかるものと思われます。居住者・建物所有者などが1日でも早く安心して過ごせる状況となればと思っています。
これらを対岸の火事とせず、自らが行う設計や監理においても十分注意して実施していきたいと思います。


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