適正な設計監理報酬

業務報酬の算定方法

建築設計事務所の業務に対しての報酬について、設計事務所毎に独自の算出基準を設けていることも多いですが、実は国土交通省が定める業務報酬基準があります。

建物の設計監理業務の場合、全体工事費に対する料率(%割合)で設計監理料を定めることもありますが、国が定める業務報酬基準で最も一般的な略算方法は用途別・床面積別に標準的な業務人・時間をまとめた略算表を定め、それにより直接人件費を算出し、経費と消費税を加えたて金額を算出しています。

○略算方法による業務報酬の算定

業務報酬=直接人件費+直接経費+間接経費+特別経費+技術料等経費+消費税相当額

直接経費+間接経費=直接人件費×1.1

直接人件費=略算表による標準業務人・時間数×人件費単価

※標準的な設計監理業務によるもので追加業務を含まない

よって

業務報酬=(略算表による標準業務人・時間数×人件費単価)×2.1+特別経費+技術料等経費+消費税相当額

国土交通省の基準:略算方法によるケーススタディ

国土交通省による業務報酬基準は定期的な見直しをすることになっていますが、今回10年ぶりに見直されました。

見直しにおいて主なものは、

・業務実態を踏まえた略算表の刷新

・略算方法に反映する難易度の観点を充実

・略算方法による算定対象外となる追加的な業務の明確化

・一部の業務のみを行う場合(例えば実施設計のみの業務など)についての取扱いを提示

となっています。

ここでは、いくつかのケースを想定しそれぞれについて、今回改正された基準(告示98号)による業務報酬がどの程度のものなのか、工事費における割合、改正前の基準(告示15号)による業務報酬との差異などについて見てみたいと思います。(一般的な設計監理業務を想定し、追加業務はないものとします)

ここでは、直接人件費を算出するための人工として、平成30年度国土交通省技師C 設計 の単価 30,800円/日を使用して算出します。(=30,800/8 = 3,850円/時間)

□ケース1)テナント事務所ビル 5,000㎡(1,512.5坪)

工事費想定:100万円/坪(ジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーション 2016 一般財団法人 建設物価調査会 貸事務所(全国)予測線より)

工事費を100万円/坪とした場合、業務報酬は料率としては5.42%。改正前の基準と比較して1.42倍となっています。

□ケース2)保育園 800㎡(242坪)

工事費想定:93万円/坪(ジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーション 2016 一般財団法人 建設物価調査会 保育園(全国)予測線より)

工事費を93万円/坪とした場合、業務報酬は料率としては7.86%。改正前の基準と比較して0.63倍となり、改正前より業務報酬が下がっています。

□ケース3)クリニック 500㎡(151.3坪)

工事費想定:93万円/坪(ジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーション 2016 一般財団法人 建設物価調査会 病院・診療所(全国)予測線より)

工事費を93万円/坪とした場合、業務報酬は料率としては10.80%。改正前の基準と比較して0.63倍となり、改正前より業務報酬が下がっています。

ケース4)戸建住宅 100㎡(30.3坪)

工事費想定:58万円/坪(ジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーション 2016 一般財団法人 建設物価調査会 戸建住宅(全国)予測線より)

戸建住宅については、実態調査による結果に床面積による相関関係について有意性のある結果が得られなかったということで略算表の業務量は改正されていません。

略算表において戸建住宅は

  • 詳細設計及び構造計算を必要とするもの
  • 詳細設計を必要とするもの
  • その他

となっていますが、工事費を58万円/坪とした場合業務報酬は料率としては、③においても17.94%、②においては55.57%となっています。

感覚的には、実際の状況とはかなり異なった値であると感じます。一般的に戸建住宅の設計監理料は工事費に対する料率で10%程度と言われていますので、かなり乖離していると言えるでしょう。戸建住宅は床面積の割に(小規模な割に)業務量が多いが報酬は少ないということなのかもしれません。

床面積が大きくなるにしたがって床面積に対する業務効率は上がり、業務報酬の料率が下がっていくことが一般的ですが、用途は違えどケース4)からケース1)へ床面積が大きくなるに従って、工事費に対する料率が下がっていることが見て取れます。

適正な業務報酬

上のケーススタディは業務報酬基準のほんの一部であり、工事費などについても仮定です。実際の場面では無限のケースがありますので、建築主や設計事務所のそれぞれが、ケース・バイ・ケースで業務報酬を決定していますが、国土交通省の報酬基準通りに報酬を得ている設計事務所はかなり少ないと思います。

この業務報酬基準は全国600以上の設計事務所の調査による実態ですから、本来はこの基準をベースとしないとどこかにシワ寄せが来る可能性が高いということになります。実際、設計事務所では長時間労働が常習化しており、俗にいうとかなりブラック体質です。“いいものをつくりたい“という強い意思が長時間労働を容認している部分もあり、それについては必ずしも否定はしないです(自分自身がそうであったし、それによる恩恵を自分自身が多分に受けていると感じます)が、働き方改革という世の中の流れもある中で、適正な労働環境のもときちっとした品質の建物を生み出すためには、設計監理業務の効率化もさることながら、国土交通省の報酬基準に則した報酬を受け取ることができるようになることが必要だと思います。


この記事を書いたのは