建物の環境性能 CASBEEの活用

CASBEEとは?

「CASBEE(キャスビー)評価員ってなんですか?」

1級建築士と共に名刺に記載している保有資格ですが、名刺をお渡しすると時々聞かれます。
今年3月には更新が迫っており、先日簡単な更新試験による更新手続きを行いました。

JSBC(一般社団法人 日本サステナブル建築協会)が研究開発し、IBEC(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)が運営・普及活動をしている建築物の環境性能を評価するツールなのですが、とてもよくできています。
IBECのHPによると
「CASBEEは、建築物や街区、都市などに関わる環境性能を様々な視点から総合的に評価するためのツールであり、現在、国内の建設事業者や設計事務所、建築物所有者、不動産投資期間などにおいて広く活用されています。また一部の地方公共段団体では届出制としての活用が進んでいます。」
と記載されています。

実際、CASBEEは現在、国内の様々な助成金や低金利融資制度などにおける建築物の環境性能の認定基準の一つとして、活用されています。
私が前職で設計を担当したTG平沼ビルでは、平成22年度のCASBEE横浜においてSランク(年度最高得点BEE:3.7)を取得し、国土交通省のサステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)において助成を受けています。

ただの省エネ基準ではない!

昨今、より重要視されている建築物の環境性能。その中での一環として、平成29年に建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)が完全施行され、一定規模以上の建築物の届け出の義務化や基準への適合義務が発生しています。2020年には改正省エネ法も施行される予定となっており、非住宅の適合義務化は300㎡以上に引き下げられる予定です。

これは、これからの建築物においては最低限守るべき省エネ性能を定め、エネルギー消費を抑えていこうというもので、これからの建築物の環境性能を定める上において、基準となるものであり、また、順守していくものとなります。
住宅と非住宅では基準値の扱いが少し異なりますが、いずれも「エネルギー消費性能」と「外皮性能」を数値化し性能を評価するものです。
ざっくりとなりますが、「外皮性能」は建築物の外皮(外部に接している部分)の断熱性能や日射遮蔽(取得)性能、「エネルギー消費性能」は「外皮性能」を踏まえた上での設備機器(エアコン、照明、給湯など)のエネルギー消費性能です。

しかし、建築物の環境性能って省エネ性能だけでしょうか?
例えば
「リサイクル材を使用して廃棄物量を抑える」
「雨水流出を抑え、大雨時の地域インフラへの負荷を抑える」
といった建築物外への環境負荷を低減することや
「適切な温湿度環境とする」
「心地よい空間とする」
といった建築物内の良好な環境の確保、もっと言うと
「耐久性や耐震性能向上」
「メンテナンスや更新のしやすいスペースの余裕」
といった建築物の長寿命化も環境性能のひとつです。
そういった複合的な環境性能を “様々な視点から総合的に”評価しようというところがCASBEEであり、他の環境評価ツールと大きく異なっている特徴です。

CASBEEの評価方法

CASBEEではBEE(建築物の環境効率)という値で建築物を評価しますが、これは

BEE=Q(建築物の環境品質)/LR(建築物の環境負荷)

で定義されています。

BEEは値が大きいほど評価が高く、BEE≧3.0の場合、最高ランクであるSランクとなります。

ランキングの例:BEE=3.7 Sランク 分子に“品質”、分母に“環境負荷”とすることで品質が良ければ良いほど、環境負荷が小さければ小さいほど、評価が高いという形になっています。

品質であるQには

Q1:室内環境(音・温熱・光・空気質)
Q2:サービス性能(機能性・耐用性・更新性)
Q3:室外(敷地内)環境(生物環境・景観・地域性)

環境負荷であるLRには

LR1:エネルギー(外皮・自然エネルギー・設備システム・運用)
LR2:資源・マテリアル(水・リサイクル・有害物質)
LR3:敷地外環境(温暖化・地域環境・周辺環境)

があり、建築物のあらゆる面を評価に加えています。

ここでは、断熱性能を高めるために窓を極端に小さくしたり、気積を小さくしてエアコンの消費エネルギーを抑えるために天井高さを抑えるといったことはLRを小さくすることに貢献はしますが、一方でQも同時に小さくします。
トレードオフの関係にある“品質“を”環境負荷“で割ることでトレードオフの関係を見事に一軸の数値に変換して評価しようというものです。

本来建築物を設計するということは、「省エネルギー」や「断熱性能」などの一目的に対して計画するものではなく、使い勝手、デザイン、メンテナンス、コストなどを最適化する多目的問題です。
建築設計においては多くの場合、それぞれの目的をすべてにおいて最大化することは不可能ですが、トレードオフの関係にあるそれぞれの目的に対して重みを定め総合的に判断を行いながら進めていくものです。CASBEEはこの考え方にとても近く、建築設計との相性がよいと感じます。

CASBEEは総合的な環境評価指標とはいえ、それぞれの評価項目に対する重みづけが行われており、BEE値はCASBEEの評価基準においてその数値の大小に意味がありますが、建築物を環境性能の絶対的な評価値という訳ではありません。しかし、評価に対する重みづけが大きい項目は現代において、その中でも特に重要と考えられている部分であり、また、その重みづけが適時更新されていくことで、時代にあった環境性能を評価できるという点もよくできていると思います。

環境に対する尺度は一つではない

建築物の環境評価は一意的ではないということ。
住宅メーカーや一部の建築屋(建築家ではない)の人たちが、むやみやたらにUA値やBEI値のみを過大にアピールしていますが、これは建築物の環境性能の評価基準のごく一部としての性能が優れているということです。

勿論、建築物の省エネ性能はとても重要です。
しかし、
「断熱性能を高めるために窓を必要最低限に抑えて」
「南向きの窓だから兎にも角にも庇をつけて」
みたいな建築物ばかりですよね。
評価値をよくするために・・・。
何か間違っていませんか?

自動車でもそうですが、使い方は人によって千差万別です。自動車の燃費は走り方によっても多少違いますが、そもそも毎日使うのか、たまに使うのかによって消費する燃料量は大きく異なります。これは、建築物も同じです。
例えば住宅であれば、生活スタイルによって全く異なってきます。
自動車を購入する上で、燃費だけで車を選びますか?そこが最上位であることもあるでしょう。しかし、それだけではありませんよね。そこには生活スタイルや使い方、デザインや色の好み、乗り心地や走り、場合によってはどうありたいかなんてこともあるんじゃないでしょうか?

私は建築家である以上、アイデアや技術によって本来トレードオフの関係にある複数の目的に対して、それらを同時に最大化する解決策を見出すことを目指しています。それが僕たち建築家の役割であり、その結果として如何に建築を生み出し作り上げていくかという部分が重要だと思っています。

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