光を読む(日影のシミュレーション)

建築基準法による日影規制

建築物を計画する上で順守すべき高さ方向の形態制限として、絶対高さ制限、斜線制限(道路斜線制限、隣地斜線制限など)、日影規制があります。
日影規制は都市計画区域の用途地域ごとに定められた建物高さや階数を超えた建築物(日影規制対象建築物)に対してかかる法規制で、計画敷地内にある単一の計画建物または複数の計画建物群が対象となります。定められた測定面(地盤面から定められた高さにある水平な面)における影による冬至1日の累積が定められた範囲に収まっている必要があるというものです。実際の建築物が出来上がったときに発生する日影は計画敷地外の建物などの影響を受けますが、建築基準法による日影規制においては計画敷地外の建物などの影響は考慮せず、計画敷地内の建築物のみが対象となります。
絶対高さ制限や斜線制限は形態に対する影響が比較的シンプルなため、建物を計画する上ではそれほど苦労しないのですが、日影規制については時間ごとに異なる太陽の位置と建物形状による日影の積み重ねによりできる等時間日影図(日影となる時間が等しい地点を結んだ線:等時間日影線により描かれた図。日商遮蔽の時間的累積の様相を示す※)が基準を満たしているかを確認するため、適切な形態を見つけるためにはトライ・アンド・エラーによる検討が必要となります。例えば、ある部分を高くする替わりに別の部分を低くするなど形態に対してトレードオフの関係が発生するため、形態が一意的になりません。
とはいえ、ある程度トライ・アンド・エラーを続け、時間ごとの日影図(時刻日影図)を見て進めていくと、経験知によってある程度目星がついていきます。

階段状の形状の建物や斜めに切り取られたような建物は、斜線制限をクリアするための形態であることが多いですが、日影規制をクリアするためであることも良くあります。階段状の形状などは中低層でワンフロアの面積が比較的大きな建物で日影規制をクリアしながら床面積を確保する場面において有効になることが多い手法です。

↑日影規制をクリアするための階段状の建物例の日影規制をクリアした形状モデル。このモデルのヴォリューム内で建物を建設すれば、日影規制をクリアしている。実際にはこのヴォリュームに内包される形でもっと細かく詳細に建設されている

下図では建物の東西方向の長さが長い中低層型の等時間日影図の例ですが、この場合、2時間等時間の日影規制上ネックとなるのは多くの場合赤点線の部分です。この部分は建物の幅の影響を大きく受けた8時の影と建物の外壁位置と高さによって決まる10時の影の隅が重なることによって作りだされる日影図です。この部分を小さく抑えようとすると、建物の頂部の形状を階段状にするなどにより朝10時の影を小さくしていくことが有効となります。

↑中低層型の等時間(2、3、4時間)日影図の例。規制は2~5時間の間の内2つの等時間日影図が対象となる。建築基準法で大枠の規制条件が定められるが、詳細には各地方公共団体の条例によって定められる。

また、角が取れたような高層ビルを見ることがあると思います。これも日影規制をクリアするためによく用いる手法で、フロア面積に対して高さが高い建物(タワー型建物)で有効です。あらゆる太陽光の方向に対して見付面積をできる限り小さくすることで測定面における時間経過によって積み重なる影の影響を抑えようとする手法です。
下図では正方形平面のタワー型建物の等時間日影図の例ですが、この場合、2時間等時間日影規制上ネックとなるのは多くの場合、赤点線の部分です。この部分は8時の影の右側のラインと10時の影の左側のラインの交点で形作られます。2時間等時間日影図は2時間違いの影の左側ラインと右側ライン交点が形作ることが分かります。このようにタワー型建物の場合、等時間日影図の形状は建物の高さが変化しても変化しないという状態になります。そのため、等時間日影図を小さくするためには、高さではなく影の幅をできる限り小さくすることが有効となるのです。

↑タワー型の等時間日影図の例

下図は上図の平面形状に対して角を取った場合と正方形平面と同じ面積となる円形平面の場合(高さは全て同じ)についての等時間日影図です。角を取った場合、等時間日影図が小さくなっていることが分かります。また、円形平面とした場合、等時間日影図はかなり小さくなっていることが分かります。

↑角を取った平面の等時間日影図の例

↑円形平面の等時間日影図の例

周辺建物などから受ける影の影響

建築物を計画する上において法規上考慮しなければならないのは自らが周辺に及ぼす日影ですが、計画する建築物が受ける日影(日当たり)の影響を考えたときは、周辺の建物や工作物、場合によっては木々や山などによる日影を検討することになります。
例えば、
①計画地の南側に大きな建物が存在している場合に建物をどこに配置するのが日当たりがよいか?
②隣接する建物の現状は2階建てだが、既に老朽化しており将来的に3階建ての建物が建つ可能性を考慮した場合、庭はどこに設置するか?屋上は十分な太陽光が得られるか?
③隣接する建物の日影の影響を考えた場合、西側に大きな窓を設けても日射による熱負荷は大きく上がらないか?
④土地を購入する上で、周辺環境による日当たり条件はどうか?
などが考えられます。

日影図を作図するのは現在コンピュータのソフトを使ったものが主ですが、私たちは法による日影規制のためだけではなく、設計を進めていく上でのシミュレーションとして活用しています。

周辺建物のからの影の影響を考慮した検討例

下の図は上記①および②の検討を行ったもの。①においては土地利用計画(配置)上の方針を検討する上での日影検討、②においては北側に庭を設置すること、屋上にテラスを設けることの妥当性についての日影検討をしています。

↑①の検討例

↑②の検討例

太陽は日々異なる位置を通過し、刻々と移動していきます。建物の設計段階において、それらを完璧に捉えて精密に予測することはできませんが、モデル化し季節、日時、時間を設定して概略の変化や状況を捉えることは可能です。
毎回、同じ場所に同じ建物をつくるのであれば一度つくってしまえば以下は同じとなりますが、毎回、異なる場所・方位・周辺環境で、異なる要望や条件に対して適切な建築を創っていくためには、シミュレーションなどによって予測するということが必要なことだと思います。

※:建築学用語辞典(日本建築学会編)より要約


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