建築で使用される様々なガラス

内外を繋ぐ窓

建築デザインにおいて大きな要素となる窓。建築デザインの上で窓の取り扱いは最重要事項の一つであり、その検討には多くのエネルギーが費やされます。窓は内部と外部を区別する境界であると共にそれらを繋ぐ結節点であり、現在、その多くではガラスが使用されています。

縁なし畳の和室から望むヤマモモの木と庭
↑内と外を繋ぐ窓。正面にはシンボルツリーのヤマモモの木

ガラスは古代ローマ時代に建材(天窓)として使用されていることが確認されていますが、日本で建材として使用されるのは幕末以降のようです。大正時代~昭和初期の生産量の増加に伴い、住宅にも普及し戦後の経済成長に伴いより発展して窓にガラスが使用されていきました。

一般的に窓に使用される透明フロートガラスは可視光透過率が90%程度(厚6mm程度)で大変透明性が高く光や視線はかなり通します。一方、埃・臭いは遮断し、音・熱もある程度遮断可能です。最近では複数のガラスで中空層を挟んだ複層ガラスがかなり一般的になってきており、断熱性能がかなり向上しています。

ガラスの種類と特徴

現在、最も一般的なガラスと言えば透明フロートガラスですが、ガラスにも様々な種類があります。建築物において一般的に使用される主な板ガラスは以下のようなものがあります。

〇透明フロートガラス

最も一般的なガラス。フロートガラス製法により表面は極めて平滑に仕上がる。可視光透過率は極めて高い(日本板硝子 カタログ FL6:88.7%)

〇複層ガラス

ガラスとガラスの間に断熱性能を高める目的で中空層を設けたガラス。一般的には同厚・同種のガラスを用いることが多いが、遮音性や遮熱・遮光を高める目的や防火性や防犯性、安全性を高めるために様々な組合せが可能。各種単板ガラスはかなりの大きさまで製造できるが、下のLow-eガラスを含めた複層ガラスは単板ガラスを組み合わせるためにその製品サイズが単板ガラスと比較してかなり小さくなる。メーカー毎に製造できるサイズが異なるため、カタログなどで製品可能なサイズを確認しながら採用を検討する必要がある。

〇Low-e複層ガラス

複層ガラスのひとつ。遮熱性能が高く透明度も比較的高いLow-eガラス(表面を特殊金属膜によりコーティング)を用いている。Low-eガラスを外側に使用した遮熱タイプと内側に使用した断熱タイプがある。現在、複層ガラスとしてかなり一般化してきている。同じLow-eガラスでも無色に近いものから下の熱線反射ガラスや熱線吸収ガラスに近い色合いを持つものもある。金属膜による遮熱性能を持ちながら熱線反射ガラスや熱線吸収ガラスと比較して無色透明であることが特徴である。

森の中の研修室の内観
↑Low-eガラスを使用した研修室の窓。ややグリーンの色味をもったLow-eガラスであるが内部からの透明度は非常に高い

〇熱線反射ガラス

表面に極薄い金属膜をコーティングしたガラス。金属膜により日射を反射させて侵入を防ぐために使用されるもの。反射率が高いため、昼間の室内が見えにくく鏡のような印象を与える(ハーフミラー効果)。様々な性能のものがあり透明フロートガラスと比べると可視光透過率は低いが、昼間は室外が見える透過率となっている。バブル期頃のガラスカーテンウォールのオフィスビルなどに多用されたが、Low-eガラスの性能向上に伴い使用されることは少なくなっている。

〇熱線吸収ガラス

日射の吸収特性に優れた金属をガラス原料に加え、着色したガラス。熱線吸収効果で日射を吸収する。暗めのしっかりした色となるため色調を生かした表情あるデザインとすることが可能。熱線反射ガラスと同様にバブル期頃のガラスカーテンウォールのオフィスビルなどに多用されたが、Low-eガラスの性能向上に伴い使用されることは少なくなっている。

〇型板ガラス

表面を平滑にするフロートガラス製法ではなく、ロールアウト製法により製造されるガラス。表面にロールの型模様がつくため平滑ではない。光を通すが視線を遮る場合に多く用いられる。

〇強化ガラス

主にフロートガラスを熱処理して強度を高めたガラス。面的な衝撃などに対してはかなり強い。衝撃に強く万が一割れても粒状に砕けるため、出入口廻りや学校などで使用されることが多い。薄い強化ガラスは旭硝子の“スクールテンパ“などの名称で商品化されている。熱処理によってガラス表面が歪み反射した像が歪むため大きな面や連続したガラス面での使用では注意が必要。強化ガラスは製造工程で混入する不純物の硫化ニッケルが原因で自然に割れることがある。

築3年でガラス997枚交換の事態に

日経 xTECH/日経アーキテクチュア(2019.08.08)より

〇網入りガラス

ガラスの中に金属製のワイヤーを入れたもの。ガラスが割れた場合ガラスが飛散しないようにしたもので主に防火性能が必要な部分(延焼の恐れのある範囲の窓やトップライト、ガラス製防煙垂壁など)に使用される。ロールアウト製法により製造されるためロール型模様が写され表面は凹凸になる。透明度を高めるためには表面を磨く処理が必要。網入りガラスのうち表面を磨き平滑にして透明度を高めたガラスを「網入磨き板ガラス」という。磨き板ガラスとした場合でもワイヤーが透明性を阻害するため、高い透明性を必要とする場合は使用しにくい。

〇合わせガラス

2枚以上の板ガラスを中間膜で張り合わせたもの。耐貫通性に優れるため、防犯ガラスや防弾ガラスなどとしても使用される。割れても中間膜によって破片が飛散しないため安全性が高く、割れることによって脱落の危険がある部分(手摺など)にも使用することがある。

↑ガラス手摺に用いられた合わせガラス

目的に合わせたガラスの選択

どういった性能が必要か?意匠上、どういった色味や反射のガラスがよいか?どの程度の透明感が適切か?

窓などガラスを使用する部分に対して、それぞれ機能上、性能上、意匠上、勿論コストも踏まえて選択する必要があります。また、例えば同じLow-eガラスであっても、ガラスメーカーによって様々な製品があり、それらの可視光透過率や反射率はそれぞれで色味も異なります。そのため、私たちもガラスを選ぶときは実物のサンプルを取って確認しています。

建物において窓は熱の侵入や流出が大きい部分で、建物の高断熱化が進む現代においては、窓の断熱化が益々求められている状況です。最近では3枚のガラスの間に2つの中空層を挟んだトリプルガラスというものも広がってきています。

ガラスの断熱性能の向上は大いに賛成ですが、ガラスの透明感や内外の距離感はガラスの可視光透過率だけで決まるものではありません。透過率は高くとも中空層を含めた厚みを感じることで透明感や内外の距離感が低下することもあります。また、ガラスを支える窓枠や方立・無目などの見た目の重さ感、可動するものであれば実際の操作性なども重要です。実際、トリプルガラスと合わせて販売されている住宅用の高断熱サッシは枠廻りの断熱性能も高めたものであり(もちろん重要な性能ではあるのですが・・・)そのままの状態では見るからに重たく、厚く、存在感が大きなものばかりです。

先に「窓は内部と外部を区別する境界であると共にそれらを繋ぐ結節点」と書きましたが、窓を内部と外部を繋ぐ結節点として考えたとき窓を“抵抗”と感じさせないようにしたいと考えています。

屋上庭園を望む透明な窓
↑ガラスの透明性を確保するために網入りガラスを使用しない防火設備の窓。防火設備認定の範囲の中でできる限りガラスやサッシの存在感を消すことを意図している

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