コンサル・マネジメント業務(内装テナント工事)

設計事務所として設計監理を主として業務を行っていますが、その他の業務の一つとして設計事務所のノウハウを活かしたコンサル・マネジメント業務を行っています。ここではその一例を紹介します。

内装テナント工事における貸主(ビルオーナー)側での確認・助言など

自社ビルを新築し、所有する5階建ての自社ビルをテナントビルとして再利用することにしたビルオーナー。繁華街のメインストリートに面することもありテナントはすぐに決まり、早速テナント工事業者によるテナント工事に入ったが・・・。

元々は物販店舗。それを飲食店舗とする計画でしたが、工事初期で問題が発生しました。テナント工事設備業者がビルオーナー側に何の確認もなく勝手に外壁に穴を開けてしまったのです。それに気が付いたビルオーナーが「これは大丈夫なのか?」と私に相談いただいたのが業務の始まりです。

早速、現地確認を行ったところ外壁および床に施工された孔あけでは内部の鉄筋を無視した形で孔あけが行われていることが確認されました。運よくきちんと保管されていた竣工図を確認したところ、孔あけされた外壁は図面上耐震壁(地震力に抵抗するために設置された構造上重要な壁)であることが判明しました。これらの孔あけのそれぞれはそれほど大きなものではなく建物の耐震性能を著しく低下させているとまではいかないものの、テナント工事によって十数カ所において無配慮に施されたことにより、少なくとも適切に計画された現状より耐震性能は低下していることは明らかでした。なにより、当該工事を確認なく無配慮に実施したことは大きな問題であり、今後も同様の事象が発生することが容易に予想できる状況でした。

また、現地確認した際に一部外壁に(設備用ダクトの設置のため)足場が組まれていましたが、その足場は隣地の敷地内に入っていることを確認したため「隣地所有者に確認・許可をもらった上での設置なのか」と確認したところ、勝手に設置したとのことでした。また、足場の振れ留めアンカーが外壁に施されていましたが、これもビルオーナーに確認なく設置されたものと判明しました。前者は近隣トラブルになりかねない事象であり、後者はビルの所有者であるビルオーナーが当該工事を認識しておらず、且つ、工事後にどういう状況で処置が施されるかも非常に怪しいということが問題でした。

これらをビルオーナーに報告したところ、当該問題についての解決に向けておよび、今後の工事において支援して欲しいとの依頼があったため、当該問題に対する処置の検討と以降の工事におけるビルオーナーの支援を行うものとしてコンサル・マネジメント業務を行うことになりました。

具体的には

  • 孔あけに対する構造および処置検討
  • 以降の工事におけるビルオーナー側からの確認・助言
①孔あけに対する構造および処置検討

幣事務所は構造の専門ではないので、孔あけによる構造耐力の低下を数値として検証することはできません。これは構造設計者の力が必要であり、当該検討については外部の信頼できる構造設計者に構造検証を依頼しています。今回は、ビル改修のスペシャリストと言える経歴を持つ構造設計者に業務を依頼して検討を行ってもらっています。今後のこと(例えばビルの売買の可能性)も踏まえ、耐震診断報告書としてまとめてビルオーナーに提出しています。また、耐震性能に問題はないものの鉄筋を切断しているため、開口補強として炭素繊維張付によるあと施工開口補強の処置を提案し、B工事(テナント負担、ビルオーナー側指定業者工事)として実施しています。

②以降の工事におけるビルオーナー側からの確認・助言

そもそも、本来あるべきA工事・B工事・C工事の区分さえ曖昧で配慮なく工事が進められていました。また、テナントも工事業者に任せっきりの状態で、工事業者も各専門業者をコントロールできているとは言えない状態でした。そこで、ビルオーナー・テナント・工事業者による定例会議の開催を提案し、その会議にて工事状況進捗確認、状況および予定報告、協議・確認事項の打合せを行うことでそれぞれの意思疎通を促し、また、ビルオーナー側として必要な確認と助言を行っています。特に、法的な問題、建物本体や周辺への影響や懸念などは商業テナント工事業者は一般には不得手です。私たちは建築士であり建築設計監理を生業とする専門家ですから、そのバックグランドをもって確認・助言を行います。勿論、定期的に工事現場も確認していますが、こういった専門家の目は適切な緊張感を生み出し結果は良いものを生むものと思っています。

これは、テナント工事における設計事務所によるコンサル・マネジメント業務の一例です。業務開始以降、工事は円滑に進んで無事完了しビルオーナーにとってはストレスなく大きな安心に繋がっています。ビルオーナー発注のビルオーナーへの支援業務ですが、テナント側にとっても第三者と言える立場の専門家の確認・助言を得ながら工事が円滑に進んでいますので、メリットは大きかったと思いますし、直接は見えないものですが完成後も安心して利用できるお店となっており、利用者さえメリットを享受していると言えます。

問題が発生したためにスタートした業務ですが、このようにテナント工事において、専門家ではないビルオーナーを支援する業務として設計事務所によるコンサル・マネジメント業務がより一般的になっても良いように思います。多くのビルオーナーは専門家ではありませんし、商業テナント工事業者は特に法的な問題、建物本体や周辺への影響や懸念などは不得手です。設計事務所によるコンサル・マネジメントを組み込むことで、円滑に進み、大きな安心を得ることができるものと思います。


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