設計事務所の違い

設計事務所とは?

設計事務所と工務店、ハウスメーカーの違いについてはインターネット上に記事がありますが、設計事務所の違いについてはあまり記事を見かけません。少し調べてみましたが、やはりそのような記事はあまりないようです。

設計事務所とは、一般的には「建築士事務所」としての登録を受けた建築設計事務所を指します。「建築士事務所」は建築士法の第6章に定義されていますが、他人の求めに応じて報酬を得て建築士として設計などを行う場合、「建築士事務所」として登録を受ける必要があります。

「建築士事務所」は全国で10万以上、広島県で2,300以上登録されていますが、その中には不動産会社やハウスメーカー、工務店やゼネコン、大企業の施設部門なども含まれています。「建築士事務所」のうち、建築設計のみ(または主として建築設計)を業としているのが設計事務所です。

設計事務所 = 建築設計事務所 = 「建築士事務所」のうち建築設計を業とした事務所

さて、その設計事務所ですが同じ設計事務所でもその特徴や成り立ちや体制はまちまち。多少主観が入りますが、設計事務所の違いについてまとめてみたいと思います。

H29年度下半期 建築士・建築士事務所登録(建築士 2018.12月号より)

設計事務所の違い①:専門性

まずは専門の違い。

建築設計という分野においては大きく3つの専門分野に分かれます。それぞれは意匠(デザイン)、構造、設備。大学の建築学科の場合、研究室配属の時点で各専門分野に分かれ卒業後も概ねそのままの専門分野に進みます。

意匠(デザイン)と言うと形や見た目などだけというイメージもありますが、プラン(間取り)や使い方をデザインすることも意匠設計の範疇です。ほとんどの設計プロジェクトにおいて、意匠設計者が設計全体の統括者となり全体の方向性を定め各分野の設計者をまとめます。建築家といわれるのはほぼ全員、意匠設計者と言っていいでしょう。多くのプロジェクトで設計業務の元請となるのが意匠設計事務所です。

構造は地震などの様々な力や荷重などに対して適切な強さをもつように設計します。作成する設計図書の中には図面の他にかなりの分量になる構造計算書が含まれ、3つの分野の中で最もエンジニアの側面が大きいと言えます。構造設計に特化した構造設計事務所が多いですが、中には構造設計をベースとして意匠設計と構造設計を行う設計事務所もあります。

設備はさらに空調・給排水衛生などの機械設備と照明・電源・通信などの電気設備に分かれます。それぞれの専門の設計のみの設備設計事務所もありますし、両方の設計を行う設備設計事務所があります。利用者が建物を快適に利用し、エネルギーや設備を最適化することが求められます。最近では室内外の環境を取り扱うものとして、環境設備設計や環境設計という名称も増えつつあります。

■建築設計の各専門分野の主な範疇
・意匠設計 : 形、見た目、プラン(間取り)、使い勝手など


・構造設計 : 耐震、耐風、耐荷重性能など
・設備設計 - 機械設備 : 空調、換気、給排水、ガスなど


      - 電気設備 : 照明、電源、通信など

建築士事務所としては積算事務所や都市計画事務所もありますが建築設計を行う建築設計事務所としては以上の3つのいずれかまたはその複合といえるでしょう。

設計事務所の違い②:仕事の受け方

次に仕事の受け方の違い。

先に述べたように設計事務所は建築設計のみ(または主として建築設計)を業としているものと定義しましたが、名称として設計事務所としていても主な業務は建築にかかわるコンサルタント業務やマネジメント業務である「建築士事務所」もあります。ここでは、(広義の意味で)建築設計を行う事務所についてその仕事の受け方と内容についての違いについて記載します。

建築主(施主)から直接設計業務を受託する元請としての設計事務所と委託者から直接設計を受けず、他の設計事務所や工務店などへの協力あるいは下請けの形で間接的に受ける設計事務所があります。構造設計事務所や設備設計事務所は元請となることは少ないですし、ひとつの設計事務所でも業務より元請の立場だったり、協力や下請けの立場だったりするため、これらを明確に分けることは難しいですが、意匠・構造・設備のそれぞれについて主たる設計を行うことを主とする設計事務所とそうでない設計事務所があります。後者の例として、図面作成のみを受ける設計事務所、確認申請手続きのみを受ける設計事務所などがあります。

設計事務所の違い③:体制

次に体制の違い。

明確な定義があるわけではありません意匠の設計事務所として一般的にアトリエ、組織と区別されます。構造や設備についても近い形態といっていいと思いますが、アトリエという言い方は特に意匠の設計事務所を指すことが多いと思いますので、ここでは意匠設計事務所の体制の違いについて書いていきます。また、設計事務所ではありませんが、建築設計を行う組織体としてゼネコン(工務店)設計部も意匠設計事務所に類似するものとしてここでは比較に加えます。

○アトリエ
個人の建築家をトップとして修業するという徒弟制度的な形態を色濃く残す。独立を目指す人が多く、多くは勤務数年~10年程度で退所する。建築家の作家性が強く個性的で先進的なデザイン事務所の多くがここに含まれる。所員として数人から数十人程度までの設計事務所が一般的。パートナーシップの形態をとり複数の建築家による事務所もある。

○組織
会社組織として十分組織化された体制を持つ。多くは社内に構造や設備などの専門部門を持ち、総合力が高く建築・構造・設備のトータルデザインを行うのが特徴。会社の雰囲気にもよるが、積極的に独立する人はあまり多くない。基本的なビジネスパートナーは法人であり、人材には高い社会性も求められる。もともとはアトリエからトップの建築家が引退して組織化した事務所が多いが、一般的にアトリエと比べてデザインは大人しいものが多い。アトリエと比べて給与は安定しており、サラリーマン建築家ともいえる。日本最大の組織設計事務所は所員数は1800人程度(2018年9月13日 日経アーキテクチャ)である。

○ゼネコン(工務店)
ゼネコンの技術力を活かした先進的な設計も行うが、会社としては施工による売り上げが大半を占めており、会社内での立場は決して高くない。ゼネコンは他と比べて一般的に給与は高く安定しており、長く勤める人が多い。施工を主とする組織に属すること、設計のみならず施工なども担当することがあることから一般的に施工などに対する知識は多い。

■一般的な分類として
アトリエ : 個人の建築家による、数人~数十人程度、意匠>技術(デザイン性 大)
組織   : 意匠・構造・設備部門がある、主として法人対象、意匠=技術(意匠と技術のトータルデザイン)


ゼネコン : 施工会社の設計部門、意匠<技術(技術力 大)

設計事務所を比較するときに

設計事務所といっても、様々な設計事務所があります。ここでは専門性、仕事の受け方、体制という項目でまとめてみましたが、実際はそれぞれの区別はあいまいで、かつ、それぞれが入り混じった状態で存在しています。

設計事務所をみるときに、参考にしていただけるとよいなと思います。
現在の状態のみならず、現在までの設計事務所の沿革なども参考になります。

特にアトリエについては、トップの建築家の経歴が設計事務所の色に大きく影響するといえます。アトリエを主宰する建築家の多くがアトリエ出身ですが、私のように組織出身の建築家もいます。また、いろいろな設計事務所を渡り歩いてから独立される方もいます。修業時代といえる20代~30代の経験、そこで得た知識、仕事のやり方や姿勢は後に多大な影響を及ぼすように感じます。

設計事務所を比較するときには、代表作などの作品のみならず様々な角度から見てみるといいと思います。


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