築地にかわる新しい日本の台所 豊洲市場

東京都中央卸売市場

築地に代わる新しい東京都中央卸売市場として昨年10月にオープンした「豊洲市場」。
今年正月のマグロの初競りではまたもやあの「すしざんまい」が過去最高額となる3億3,360万円で競り落とされるめでたい?ニュースも流れましたが、開業に至るまでは様々な報道がなされ、混乱に混乱を重ねた感がありました。
使用してみての当初は多少の混乱もあるとは思いますが、日本の台所を支えるといっても過言ではない市場ですから、上手く運用されていくといいなと思っています。

さて、この「豊洲市場」。建物の設計は日建設計。
日本最大手にて最強の組織設計事務所です。
「豊洲市場」も東京都発注の大型施設の設計ですから、勿論プロポーザルが実施され日建設計が選定されています。
私も日建設計さんとは何度もコンペ・プロポーザルなどで競合し、そしてほとんど負けてきました。(勝ったこともありますよ。確か・・・。)
日建設計は兎に角、上手く、賢くそして隙が無い。そんな設計事務所です。

地下ピット

当初、2016年11月にオープン予定であった「豊洲市場」ですが、実際オープンしたのは2018年10月。実に2年も延期されました。
2016年8月、ここで問題視されたのは「建物下に土壌汚染対策の盛り土がなく、地下空間が存在した」ということでした。連日のワイドショーなどで“悪の根源”のように取り扱われた地下空間。実は、ビル系の建物のほとんどに「地下ピット」という名で存在するもので、なにも特別なものではありません。

あるテナントビルの断面図。黄色の部分が地下ピット部分

上部の建物の重さを支える基礎躯体(地中部の構造体)はそれなりの大きさになります。
「地下ピット」は基礎躯体を利用した空間で、主に建物内部と外部をつなぐ設備(上水、下水、ガス、電気など)の配管経路や消火用水などの貯水のための空間、地中からの湿気対策の空間となります。
小規模なビルや戸建住宅などではピットを設けず、配管などのリニューアルや追加については一部床を解体して行なったり、使わなくなった配管は撤去せず残したまま配管を外壁などに露出して行うこともありますが、建物の寿命を考えたとき設備の更新やメンテナンスは何度も発生するものであることから、適切なメンテナンスと更新を行えるようにするためにピットを設け、ピット内に侵入できるようにする。これは至って普通の“配慮ある”設計なのです。

豊洲市場の断面概念図

誤解に対する十分な説明のないまま・・・

都がこれらを問題として設置した市場問題プロジェクトチームの建築の専門家は当初から「建築的な側面から地下空間に問題はない」としていたのにも関わらず、いつの間にか歴代の市場長のうち地下空間の存在を認識していたのは1人だけという都の内部のコミュニケーション不足の問題にすり替えられ、誤解を解かないまま冷静な判断がなされなかったと感じます。
私から見ても、都知事やメディアが“問題だ“といっているどこが問題なんだ?という感じでした。あまり言いたくはありませんが、パフォーマンスに終始したというものにしか見えません。そこに便乗する自称専門家・建築○○ミストなんて人も出てきてさらに混乱を深めていきました。

地下空間を土壌汚染に対するモニタリング空間として重機を使用できるようにするという都の方針に従い、通常よりはかなり高さのある地下空間を確保していますが掘削→埋戻→掘削という2度手間による無駄な工事コストの削減、継続的な土壌汚染のモニタリングと対策、通常の建物以上に必要な設備更新やメンテナンスへの対応と実に合理的なつくり方だと思います。
日建設計が提案した内容は至極当然であり、その辺はさすが、上手く、賢く、そして隙の無い日建設計だな。という感想です。

工事工程のイメージ。下が今回豊洲市場で実施された工程。無駄な工程を省いた合理的な工程

開場前に多くの誤解を生み味噌をつけられてしまった感のある「豊洲市場」ですが、運用において十分な活用がなされ、日本の台所を支えるよりよい市場として発展していくことを願います。

「豊洲市場」は見学者コースが設定されており、市場開市日のAM5:00からPM5:00まで見学可能とのこと。
詳しくはこちらに記載されています。


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