設計事務所(建築家)と工務店とハウスメーカーの違い

家づくりを誰に頼む?

「さあ、家をつくろう!」となった時、「さて、誰に頼めばいいの?」

とても悩むものだと思います。

相談・依頼先は一般的に「設計事務所(建築家)」、「工務店」、「ハウスメーカー」の3択になってきます。これらの違いについてなんとなくのイメージはあるかも知れませんが、よくわからないものだと思います。

これらにはそれぞれの特徴があり、また、メリット・デメリットがあります
これらの違いについて一般的な内容として(幾分、主観的な内容にはなりますが)書いてみようと思います。

設計事務所(建築家)

設計事務所とは主に建築物の設計および監理を行う事務所で、工事は実施しません。設計事務所も様々ですが、多くの場合は一級建築士などが運営する「建築士事務所」で1人・数人の規模のものから1,000人を超える大規模な事務所まであります。

設計事務所は施工会社とは分離しており、独立した立場で設計・監理を行うスペシャリストです。小規模の設計事務所の場合、代表となる建築士などの個によりデザインなどの特徴が表立ってくるため、個に着目した表現として「建築家」という形で表現されることも多くなります。

設計事務所といっても色々な形態があります。コラム「設計事務所の違い」ではいくつかの観点から設計事務所の違いを書いていますが、建主から戸建住宅の設計の依頼を受ける設計事務所の多くは意匠(デザイン)を主とした小規模の設計事務所です。

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設計事務所の違い 設計事務所と工務店、ハウスメーカーの違いについては記事を見かけますが、”設計事務所の違い”についてはあまり見かけません。ひとことに設計事務所といっても、その専門や成り立ちは様々。専門性、仕事の受け方、体制の3つの着目点で設計事務所の違いについてまとめています。

設計事務所はデザインや設計力に特徴があることが多く、プラン(間取り)やデザインにこだわりたい人、変形敷地など条件が特殊で設計力が必要とする人、他にはない唯一無二の家を望む人、オーダーメイドの家づくりを楽しみたい人などが向いています。
要望やコスト配分のメリハリなど条件に合わせた設計を行いますが、建主の要望や条件を足し算的に設計するだけでなく、建築家としての考え方やデザインを付加した提案が期待できます

要望や条件に合わせて打合せを繰り返し、互いに試行錯誤してコミュニケーションを行いながら設計を進めるためハウスメーカーや工務店と比較して、設計期間が長くなることも特徴です。

設計事務所との家づくりの場合、設計は設計事務所が行い、作成された設計図を基に施工は施工会社が行います。設計契約と工事契約は別の契約で、設計と施工が完全に分離した形で進みます。多くの場合、設計事務所は設計と共に監理(工事が設計図通りに施工されているかのチェック)を建主から委託を受けて実施します。設計事務所は施工会社とは独立した立場で専門家として工事のチェックを行うのです。また、工事中における建主の要望や施工者からの提案などのやり取りにおける窓口となることで円滑なコミュニケーションを図ることができます。

設計事務所との家づくり

上図のように工事に入れば窓口はひとつとして設計事務所を上手く活用することが重要だと思います。

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工事が始まったら ~窓口はひとつに~ いよいよ工事のスタート。出来上がっていく過程をみていくと初めてわかることもあります。設計監理者や工事業者を信用することは大事ですが、あとから「こんなはずじゃなかった・・・。」ということが起こらないよう、建築主自らが現場で確認することも重要です。一方、工事中の現場は建築主に引渡しがなされるまで“工事業者が管理する工事業者の持ち物”です。

家づくりでは土地の取得や資金計画など建物の設計や工事以外の様々な事項への対応が必要となりますが、設計事務所は設計および監理の専門家であり、不動産や資金計画の専門家ではありません。中には宅地建物取引士やファイナンシャルプランナーなどが在籍するような事務所もありますが、多くの場合、そういった事務所は建築設計および監理の専門性は低くなりがちです。

このように設計事務所に依頼して家を建てるということは、建主にとって家づくりがワンストップとはなりませんので建主自らが主体的に家づくりに取り組む必要があります。ワンストップを望み、放っておいても家ができることを望む場合には家づくりのパートナーは設計事務所とはならないと思います。個人的にこれは結構大事なことだと思っていて、設計事務所との家づくりは工務店やハウスメーカーとの家づくりと比較すると時間と手間がかかって、それらを主体的に楽しめることができる建主が向いていると思います。

例えば、プランニングなどの提案について。先に書いたように建主がこうして欲しいという要望に対して多くの設計事務所はそれをそのまま図面化するという形では進めません。建主の要望に対して、建築家としての考え方やデザインなどを付加したり、よりよいと思うものを提案します。それは時として、建主の意図や希望とは異なるものであったり、またはよくわからないことであったりすることもあります。その時、それを解決するために行うコミュニケーションが有意義なものと感じれるかどうか。

例えば、唯一無二であるが故に発生する問題発生について。工業製品のように毎回同じものを工場で作る場合は、材料も手順も方法も全く同じで品質も価格も安定します。しかし、毎回異なる敷地に個々の要望や条件に合わせた設計を行うということは、即ちつくる家は毎回初めてのものになるということです。しかも、他とは違う唯一無二の家であればあるほど、品質やコストなどに対しての不確定事項が増えてきます。不確定事項が後になって問題として発生した時にそれを解決するための時間や手間や変更などを冷静に受け止め、建設的なコミュニケーションをとれるかどうか。

例えば、施工会社選定について。設計事務所の家づくりのメリットとして挙げた設計と施工の独立性ですが、設計事務所と施工会社と適切な関係を持っている場合は問題ありません。しかし設計事務所と施工会社が親しすぎるなど独立性が低い場合や(キックバックなど受けているなどの)不適切な関係がある場合もあります。(あまり言いたくはありませんが、そういったことはあるようです。)建主は設計事務所とは別に施工会社と直接工事請負契約を締結することとなります。施工会社選定においては設計事務所に丸投げせず、自らが施工者の候補を提案したり意見したりするなど自分のこととして捉えることができるかどうか。

上記はあくまで例で、設計事務所との家づくりがこうだ!というものではありません。幣事務所でもコミュニケーションをしっかりとりながら不確定事項による問題発生を抑えること、適切な施工会社を選定することについてはかなり注意を払って業務を進めています。それでもやはり、工務店やハウスメーカーと比べると手間と時間が必要で、より密なコミュケーションを取ることが建主にとっても設計事務所にとっても必要なことになってきます。

工務店

工務店は地元に密着した建設会社で、設計から施工まで一貫した家づくりとなります。建主と工務店の契約は設計と施工が一貫となっているため、設計と施工が分離された状態と比較して、責任の所在が明確です。

工務店は昔ながらの大工での家づくりの系譜をひくもので、それまでの経験や実績を頼りに実際の施工を中心に据えた形で家づくりを進めます。工務店の規模や体制などにもよりますが、実際に工事する人が中心となって進めていきますので、初めから最後まで一貫した家づくりとなります。設計段階での打合せはほどほどに工務店のインハウスの建築士や外注(下請設計事務所など)の建築士などが設計図を作成しますが、詳細な設計図の作成を行うことはありません。プラン(間取り図)や立面図、断面図など一般図と言われる図面程度とそれに基づく見積書をもって仕様を定め、施工段階に進みます。

工務店との家づくり

基本的には建主の好みや条件に合わせた設計をしてくれますが、施工を主としているため設計のスペシャリストではありません。また、設計の自由度よりも工事側の論理が優先される場合があります。建材や製品は取引の多いメーカーのものやよく使用しているものが勧められます。これは工務店が得意とする範囲においては品質や性能の割に安価で採用できるメリットがありますが、一方で工事側の論理が優先した形での提案とも言え、それ以外のものを採用する場合は割高であったり、選択できなかったりということもあり家づくりの自由度を下げてしまうこともあります。また、最近ではデザイン力や設計力のある工務店も増えてきている印象ですが、よくはできているものの一般的な戸建住宅の域は出ていないというものがほとんどです。一方、断熱性や気密性の高さを売りにしたり、地場産材などを用いることで心地よさや温かみのある家とするなど、施工や流通の工夫によって品質を高めたり他とは差別化したりする特定の事柄に強みのある工務店も増えています

ハウスメーカーと比較すると規模が小さく小回りがきき、連絡するとすぐに駆け付けてくれるような機動力が高いところが多いと思います。資金計画などについて相談・サポートを行う工務店もあり、細かな対応を得意としています。地域密着型で人と人の付き合いを大事にしているところが多く、完成後の修繕などアフターケアへの対応力が高いのも特徴です。また、積極的に大規模な広告宣伝を行ったり、住宅展示場などにモデルハウスをつくるなどを行う工務店はあまりなく、小規模な経営であるため工事関係以外の経費が抑えられています。

自分でプラン(間取り)を考えたいけど普通の家がいい人、地域に密着した堅実なものを建てたいという人、実績などから同じような家を求める人、アフターケアも含めて小回りが利くことを優先したい人などが向いていると思います。

ハウスメーカー

選択できる機能や仕様をカタログから選択するような家づくりを行います。先に”家づくりは工業製品とは違う”という書き方をしましたが、ハウスメーカーによる家づくりはできる限り家を工業製品化し体制を組織化することで、期間を短縮し性能と品質を安定させようというものです。施工はハウスメーカーと契約した工務店などが行いますが、早く、簡単に、確実に施工ができるように準備された施工マニュアルに沿ってつくるため、工業製品のように期間を短縮し、性能と品質を安定させることができます。一方、仕様や材料の選択の幅が狭く、プラン上の制約があることが多いのも特徴です。設計の自由度が大幅に制限され、敷地・地域の特徴や、建築主の状況に対する細やかな対応は不得手です。

建主への対応として窓口になるのは初めから最後まで営業マンです。建築士が建主との打合せに出てくることはあまりありません。設計図や確認申請図の作成は有資格者の建築士であっても、建主の要望をメーカーの規格に合わせて間取りに落し込んでいるのは営業マンで、それを建築的・法的に問題ない図面にしているのが建築士という役割分担が多いのが実情だと思います。細かい仕様や規格・ルールはあらかじめ決まっており、部屋のレイアウトが決まれば、自動的に家が建つ仕組みが作られています。「自由設計」などと謳っていなどるものもありますが、規格やルールの範囲内での自由であり、ハウスメーカーでの家づくりは簡単なパズルの組み合わせのようでもあります。

土地探しや資金計画に対応するなど、建物以外の部分が設計事務所や工務店と比べると充実しており、サポート体制を構築しているハウスメーカーも多く、建主にとっては営業マンを窓口としたワンストップな体制となります。あらゆることをシステム化することにより期間を短縮し、性能と品質を安定させる方法をとっていますが、建主に対する窓口がワンストップであるがゆえに場合によっては営業マンの能力が家づくりを円滑に進めるためのキーになることもあります。担当の営業マンとの相性が悪かったり、力不足だと感じた場合は組織として対応してもらうことが可能です。ハウスメーカーという組織を家づくりのパートナーとする大きなメリットとも言えますので、そこは遠慮することなく要望することが肝要だと思います。

アフターケアは組織として定期的な対応をしてくれるところがほとんどですが、ルールの中で定められた規格品のため、完成後に部分的に手を入れることや逐一修繕していく上において、ルールや規格が制約となることがあり、アフターケアにおいて細かな対応を難しくしていることもあります。

サンプルとして住宅展示場のモデルハウスがありイメージしやすいのも特徴ですので、わかりやすく安心です。プランやデザインよりも安心感を求める人、入居までの時間がない人、家づくりを一気に進めたい人などが向いていると思います。

設計と法的手続きを簡略化して部材もあらかじめを大量に仕入れることにより、建物にかかるコストを大幅に削減していますが、同じような住宅を大量生産し売ることを前提とした工業製品的なビジネスモデルであり、広告費・販売促進費、モデルハウスの建設費・維持費、営業マンの人件費など建てる家に直接かかわらない経費がコストに大きく上乗せされています。建物にかかるコストが低く抑えられたにもかかわらず、建主が最終的に支払う金額は安くないというのが実情です。さらに、刻々と変わる社会情勢や不具合の是正などを改善するために行うマニュアルの更新やシステムの見直しなどにかかるコストもあります。

ハウスメーカーはシステム化による安定性と品質の高さが大きなメリットです。現在では設計事務所や工務店による家づくりでも工業製品が多く使用されますし、現場内での加工を減らし現場外で加工したものを搬入して取り付けるなどかなり工業化されてはいますが、それでも家づくりにおける性能や品質は多くの場合、設計者や職人の腕によるところが大きくなります。ハウスメーカーの場合、建材の加工の多くを安定した環境の工場内で行なわれるため、部材の精度が高く仕上りも均一です。現場では取付方法が簡略化され、施工マニュアルのとおりに施工すれば、深く考えることなく誰でも正しく施工できるようになっています。しかし、それがゆえに不具合の発生もマニュアルやシステムに依存することが多いと考えます。その意味において、マニュアルの更新やシステムの見直しなどはハウスメーカーにとっては必須であり、この部分コストを削減しているハウスメーカーには期待できないと思っています。

ハウスメーカーは建築家や工務店などのように個の能力に頼るのではなく、工業製品化された建材・製品と整備された施工マニュアル、そしてそれらを正しく運用するためのシステム(体制など)によって、個に依存せず組織全体でシステム化された中で家づくりを行います。システムを正しく更新していけば工業製品のようにシステムの中にノウハウが集積されていくので、設計事務所や工務店と比較すると不備や不具合の発生が少なく安心感の高いパートナーだと思います。しかし、システム化することによってさまざまなことがブラックボックス化される可能性もあり、知らないうちに誤ったシステムを運用し続けることによる不備や不具合が大きな問題に発展してしまうということも起こっています。

おわりに

よくある、設計事務所が言う「設計事務所との家づくり」、工務店が言う「工務店との家づくり」などは多くの場合、他と比べたメリットばかり強調してデメリットについてあまり触れられていません。

幣事務所は設計事務所らしい設計事務所だと思っていますので、設計事務所のメリットを強く押し出していると思いますし、設計事務所との家づくりをお勧めしたいと思っていますが、それぞれメリットがあればデメリットもあることをここでお伝えできればといいなと思っています。もちろん、上に書いた内容がそれぞれすべて当てはまる訳ではないですし、工務店と設計事務所の中間のような工務店、工務店とハウスメーカーの中間のようなハウスメーカーなど家づくりのパートナーは様々です。

その中から、建主が自分に合った家づくりの方法を選ぶことがいい家づくりにはかかせないと思います。とは言いながら、それは大変難しいことで、最終的には「エイ、ヤー!」として決めなければならないことでもあります。

家は「3回つくって初めて納得の家ができる」なんてことも言いますが、家を3回もつくることなんてできません。ほとんどの場合、一生に一度の家づくりですから、いい出会いでありたいものです。

このコラムがその参考となればよいなと思います。


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