建築のデザイン:コンセプト -よりどころとなる芯をつくる-

複雑化する建築

私たちが行う一般的な建築設計のプロセスにおいては、多くの場合、まず敷地があり、そこへ建築主の要望があることからスタートします。
それに加えて工事費などのコスト・技術的な要件があり、ユーザーが建築主と異なれば潜在的なものも含めてユーザーの要求があり、そして、もちろん建築基準法や消防法・その他各種条例や法令の要件があります。
その他にも、社会に実在する物理的な存在として環境への配慮、文化的な価値の創出などの社会的要請に対してどう応えるべきかといった観点も考える必要があります。そして、図では少し控えめに描いていますが、建築家としてどういったものとしたいかという想いや好みみたいなものもそこには入ってきます。

建築を取り囲むさまざまな条件や要望

昨今では、省エネやバリアフリーなどへの配慮や耐震偽造などによる専門家不信、技術の向上や建築生産方法の変化などもあり、ますます「建築する」ことが複雑化しています。
設計とはこれらを統合しながら進めていく作業ですが、こういった条件などは初めの段階から、だんだん変化・追加し、発散と収束を繰り返し、場合によっては全くひっくり返ったり、大きくジャンプしたりすることもあります。それは、打合せや様々な人々とコミュニケーションを取りながら最適な解を探していくという感じです。

発散と収束を繰り返し、最適解を探索

この過程において、条件をただ“足し算”的に統合していくだけだと、トレードオフの関係にある条件をクリアすることができなかったり、あたかも取ってつけたような感じでまとまりがないということになってしまいます。

計画の芯=コンセプト

そこで、登場するのが建物の特徴を表す上で一言や一文程度で表せる“コンセプト”。どこかの地点で計画の芯として“コンセプト”を設定することが重要となります。
これが明確に定まっていると

  • わかりやすく
  • 明確な特徴をもった
  • 芯の強い建物

となり、設計を進めていく上で判断に迷ったときや、取捨選択しなければならない時によりどころとなります。

発散と収束と計画の芯

コーディネイト× ⇒ 付加価値の創出〇

設計する上においては、建築主の要求を満たすだけでは不十分。要望をまとめてコーディネイトするのではなく、そこで一体何を生み出せるか?その建築で何が起こせるか?ということを考え設計するように心掛けています。
建築はそもそも物理的な存在が大きく、社会や地域にインパクトを与えるものです。加えて建設すること、運用していくことで多大なエネルギーも消費します。そういった大きな影響力、ややもするとマイナスの側面があるものですが、新しくできることやリニューアルすることでプラスとなる強い要素をもたせていきたいと考えています。

コンセプトを持った作品例

光が射し込む木のクリニック

〇PICTORUいすも画像診断室

MRIを備えた画像診断専門のクリニック。
建築主の要望としては、「とにかく特徴的な目立つクリニックにしてください」
ということだけでした。設計を進めていく中で、模型による屋根の形状の検討を進めていくうちに、「外光が射し込む明るい木のクリニック」がコンセプトに相応しいとわかってきました。

↑初期のスタディ模型。屋根形状が異なる案にて比較検討している。採用したのは最上段の案
↑採用案のコンセプト模型。実際出来上がったものと同じではないが、既にコンセプトは表現できている。

病院というのはやはり機能優先。患者さんが過ごす待合室に対して、診察室や治療室などがその周りを取り囲んで医師や看護婦の動線、カルテの動線などが張りめぐらされていて、待合室には窓も取れない。
一方、治療や検査に来られた方は、少なからず不安な気持ちでここを訪れます。その不安な気持ちを少しでも和らげることが空間としてできないか。


囲われた待合スペースに上から光を取込み、明るい木のクリニック。外観で現れる特徴的な木造の反り上がる屋根は、実は、このコンセプトを実現する形となっています。

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