工事費の査定と調整

工事費の見積

見積書 鑑の一例 以降に詳細の内訳書を提出してもらう

工事費の見積もりは設計図面を持って、その内容の通りで施工者に見積を依頼します。弊事務所は、恐らく同規模・同程度の設計事務所と比較するとかなり図面枚数も多く、密度も濃いと思います。これは、設計意図および設計内容をより正確かつ詳細に伝えるためであり、品質の高い建物をつくるためには絶対的に必要なものだと思っています。

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図面は必要か? つい先日、ある方と建築設計が3次元化していく中で、建築図面(2次元図面)は必要か? という話をしました。僕の立場は「これからも必要」、相手の立場は「不要(になる)」。

しかし残念ですが、そういった内容がしっかり描かれた図面に対して見積り慣れていない施工者が多いと感じます。

内容が薄い図面での見積では実際工事で発生する材料や工事が図面からは読み取れず、見積書の内訳に項目として上がってきません。そのため、実際の工事で発生するのにも関わらず、内訳書に項目として入っていない材料や工事があるという状態になってしまいます。

では、実際そんな状態でどうしているのか?

それは、「入っていて当たり前でしょ。」とか、そもそもそんな議論もなく工事が行われて行くというというのが多いのだと思います。

それで施工者も赤字になっては困りますから、普段、内容が薄い図面で見積もりをしている状態では、(施工者も意識できていない状態になりますが)図面からは読み取れない内容を含んだ大雑把で余裕を見た見積書の単価となってしまっています。しかしながら、しっかりと描かれた図面では、内容が薄い図面と比較して見落とされた項目が非常に少なくなります。にもかかわらず、普段、内容が薄い図面の見積もりに慣れている施工者では、しっかりと描かれた図面であっても内容が薄い図面を見積している時と同じように見積もりを行い、そして、同じ単価を採用し、その単価が正しいと疑いません。

工事費の査定

そこで、施工者の見積による工事費に対して査定を行います。私たちの査定は根拠を持って、それらを提示することで行います。その根拠はこれまで多くの建物を設計して見積をいただいたさまざまな見積実績データを元に、その単価平均や数量的な部掛などを纏めたもので、幣事務所としてかなり自信を持っているデータであり、弊事務所の図面の程度や内容に合った重要で信頼性の高いデータです。その他にも、全国主要都市での調査による工事単価などをまとめた書籍や様々な建築系書籍などの単価も参考にします。

工事費概算書の中にまとめられている実績単価の集計表の一部

工事費の査定では、まず、数量の間違いなどを指摘し、それに加えて、単価が適正であるかを全ての項目に対してチェックをします。

事務所内で行う内訳書チェックの例 緑:数量チェック、赤:単価チェック、紫:単価チェック(実績など)

正直言うと、施工者にとって余裕のある工事費で工事に入る方が、現場での監理は断然やり易くなります。やはり、工事費に全く余裕がないとか赤字状態だと、現場は過度な緊張が発生し、色々なことがスムーズに進みにくくなってしまいます。しかし、だからと言って私たちは施工者の見積による工事費を鵜呑みにすることはありません。工事費は建築主にとってはとても大きな支払いです。できる限り安価としたいのは当然ですし、ましてや、適正と言えない工事費では納得できません。

何をもって適正とするかというのは難しいですが、他の見積やこれまでの実績、社会情勢や工事費動向を踏まえて、建築主および施工者と協議を進めます。

参考にする様々な書籍。最新のものを常時備えているわけではないが、業務の必要に応じて購入して情報をアップデートする。信頼できる出版社が責任をもって発行する書籍であり、その客観性と信頼性は十分なものである。

施工者にとっては面倒臭い相手

はっきり言って、弊事務所は施工者にとっては面倒臭い相手だと思います。図面は多くて内容も濃く事細かいし、性能的にも意匠的にもうるさいし、普段、設計者や監理者に確認もせずに行なっている内容も確認を要求するし、工事費の査定も細いし。。。

だから、積極的に弊事務所と仕事したいという施工者さんはあまりいません。施工者さんから仕事を頂くということもほぼありません。施工者から変に好かれている設計事務所は多くの場合、施工者からすると都合の良い、耳の痛くない、あしらい易い設計監理者なのだと思います。個人的には施工者からの紹介で設計監理を行っている設計事務所に設計監理を委託しようとするときは十分に見極めた上で委託契約を結ぶべきだと思います。

私は、建築主にとって良い設計監理者である条件の一つとして、施工者と適切な距離感をもっていて少しくらい施工者から面倒臭がられているくらいが良いと思っています。勿論、施工者は設計監理者にとって敵対する相手ではなく、良い建物をつくるために一緒に仕事をする協働者です。しかし、やはりそこには適切な距離感が必要で、そのいい距離感による適度な緊張感がよい建築を生むものと思っています。


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