階段と吹抜が生み出すアクティビティとコミュニケーション

アクティビティ

「アクティビティ」

最近では「主に自然の中での動きを伴うレジャー」という意味で使用されることが多い言葉ですが、建築用語としては「主に建物内部における人の活動や動きを伴う様子」をアクティビティと表現します。

アクティビティといえば写真のようなものをイメージすると思われるが・・・

建築においてアクティビティはその空間を特徴づけたり、印象づけたりする上でとても重要な要素だと思います。特に多様なアクティビティが発生する空間は、その相互作用によって新たなアクティビティを誘発し、人々に様々な体験と刺激を与えることが期待できます。

アクティビティを生み出す空間つくり

私たちが建築を設計する場面において、必要な諸室はもちろんその機能性や意匠性など十分満たすように設計を進めますが、設計する上で“肝”となる部分は多くの場合、諸室と諸室の間にある空間となります。
建築の工事費は原則的には面積に連動しますし、動線の長さは利用者の利便性に関わるため、廊下などはできる限りコンパクトに抑えるということも重要ですが、一方で諸室と諸室の間の空間は、諸室間の適切な距離感や“間“を確保し、移動を含む様々なアクティビティが発生する空間でもあります。
私が組織設計事務所在籍時に指導を受けた上司の一人は、設計時にその“間”の空間をオレンジ色の色鉛筆で塗り潰していました。そのことについてその上司に聞いたことはありませんが、オレンジ色で塗るのはエネルギーや活気を感じる空間として捉えているためだと理解しています。私も設計する上では、しばしば“間”の空間をオレンジ色で塗りつぶしています。“間”の空間がどのような形をして、諸室をどのように繋ぎ、連続しているかということを目で捉え、発生するアクティビティを想像しながら設計している様に思います。

”間”の空間をオレンジ色に塗ったプラン。オレンジ色の広がりや形を捉えることができる。

下の写真は、ある企業研修所のエントランスホール上部の共用部分にある吹抜けとそこに隣接するロビー空間の全体を見下ろしたものです。

エントランスホールの上部吹抜に面して積み重なるロビー・ラウンジスペースとらせん状に連続する階段

ここでは、各階に配置された各研修室を上下に繋ぐ階段と研修と研修の間にリフレッシュするロビー空間を吹抜けを介して連続・隣接させています。魅力的な場を提供すること、使いやす場を提供することでエレベーターを利用するだけではなく階段を利用することを促し、様々なアクティビティを誘発することを意図しています。特に、階段は直上下階の移動や上階からの下階への移動をイメージしながら、階段の位置、向き、長さ、踊場形状などを決定しています。

吹抜以外の空間にも、ドリンクなどを提供できるカウンターを配置し電動の意図カーテンで仕切ることも可能なレセプションコーナーや研修の受付後上階の研修室へ階段が誘う受付ロビー、施設の説明などを併設したサインを配置した休憩スペースなどアクティビティを誘発する仕掛けある空間を配しています。

この研修所では、多様なアクティビティが発生することを意図している“間”の空間をガラス張りとして内外を視覚的に繋いでいます。この空間にいる人が内から外の様子を感じ取ることもまた、アクティビティを誘発することに寄与します。

アクティビティを内外にあらわす建築

“間”の空間は外部から見ると連続するガラス張りの空間となっており、外からも中の様子を感じることができます。こういった空間つくりはまちの人々に対しても透明な印象と親しみを与えることになります。特に外部に表出したアクティビティはまちに明るさと色を与え、そして、まちに活気を与えるものと思っています。
建物を建てるという行為そのものが大きなインパクトを与える行為であるがゆえ、まちにとってものプラスとなるようにという想いをもって計画されています。

アクティビティがコミュニケーションを活性化する

現在、新型コロナウィルスによるリモートワークが広がってきていますが、その中で懸念となっているのがコミュニケーション不足と言われています。特に、進行中の仕事上において直接の繋がりのない人とのコミュニケーションが著しく低下しているということです。
現在、あらゆるものがインターネットを介した情報システムによって解決するという世の中になってきていますが、建築という実際の空間が人に与える力というものはやはり存在するものと思っています。
目的へ到達するために間を省略することはそのものの効率を高めることができる一方、目的と目的の間にある半ば偶発性により生まれることによって得られる情報や体験は、得ることができないことになります。
私たちが建築を設計する上においては、実際の空間、特にその“間”の空間において、様々なアクティビティが発生することで多様なコミュニケーションが活性化することを意図して設計することが多いと思います。
これは、企業のためのオフィスでも、家族のための住宅でも、園児と保育士のための保育園でも大事な要素と思っています。

吹抜に面した休憩スペースと踊場が広げられた階段。人のアクティビティが人と人のコミュニケーションを誘発する
↑ロビー空間に隣接した吹抜けに浮かぶ拡張された踊り場。階段を行き交う人とロビー空間に留まる人が接する空間づくりとなっている

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